100万円の女たち 考察 100万円の女たち 考察

謎が謎を呼ぶストーリーが評判の『100万円の女たち』。

衝撃の結末やエピローグをもって完結しましたが、多くの謎が残ったまま終わってしまいました…イマイチしっくりきていない方も多いのではないのでしょうか。

今回は『100万円の女たち』の隠れたメッセージ結末とエピローグを考察したいと思います。

まだ読んでない方はこちら:『100万円の女たち』謎が謎を呼ぶ!1男5女の奇妙な共同生活ミステリー【あらすじ・感想】

隠れた主題とは

『100万円の女たち』は、人の「価値観の違い」について考えさせられる作品だと私は感じました。作中には「価値観」やそれに類似する表現がたくさんでてきます。

佑希「ご自分の価値観を他人に押し付けるのは間違いですよ」

『100万円の女たち1巻』

佑希「世の中に絶対なんてありませんよ…死ぬコト以外。」

『100万円の女たち1巻』

道間「お金の価値も命の価値も、何もかもバラバラだったに違いない…」

『100万円の女たち4巻』

ひとみ「そんなに理由や理屈がないと生きてちゃいけないんですか?」

『100万円の女たち4巻』

などなど。

なぜ女たちが道間のもとを訪れ、命をかけた共同生活を始めたのか。ある程度の推測はできても、はっきりとその意図を理解することはできませんでした。それこそ本作品のもやもや要因の一つ。

でも「人の価値観の違い」こそが主題だとすれば、彼女たちの言動に共感・理解できなくて当然だと感じませんか?

真犯人の動機やエピローグを読んでもイマイチぴんと来なかったのは、本作品の意図そのものだったのかもしれません。

であれば、読み手の解釈も人それぞれ。そのうえで、残された謎について、以下の二つを私なりに考察していきたいと思います。

  • 【謎1】美波は何故、みどりに遺産を残したのか。
  • 【謎2】みどりは何故、美波として生きることにしたのか。

【謎1】美波はなぜみどりに遺産を残したのか。

真犯人に殺された美波は、自分の遺産すべてをみどりに残し、部下であった砂子(すなこ)には、みどりが成人するまでのサポート料を支払っていました。

そもそも共同生活で、特に馬が合わないのが美波とみどりだったはず。なぜ美波はみどりに遺産を残したのでしょうか。

美波とみどりの共通点

高校生のみどり。

高級倶楽部を経営する美波。

似ても似つかぬ二人ですが、唯一の共通点がありました。

みどり「私が18歳になって「SEXしてほしい」って言ったらしてくれますか?」

『100万円の女2巻』

美波「この家のいろいろなコトが解決したら…その時は、また勇気を出してあんたにお願いしてもいい?ちゃんと抱いてよね」

『100万円の女4巻』

二人とも道間との経験を通じて、自分のコンプレックスを克服したいと願っていたのです。そして道間といつか経験することを道間に約束させていたのでした。

ふたりのコンプレックスとはなんだったのでしょうか。

みどり「人はSEXを経験すれば人は強くなりますか?」

『100万円の女2巻』

みどりは未成年であること(=弱さ)をコンプレックスに感じ、経験することで大人(=強さ)になれると考えていました。

生まれ育った施設が嫌いで施設を出たくでも出られない…携帯電話の名義や宝くじの当選金の受け取りも成人の神田に頼らなければならない…

一人で現状を打開できないのは、自分が弱いからだと考えていたのでしょう。

美波のコンプレックスは、実の父親から性的虐待を受けていた過去が原因で、他の男性とまともに経験できずにいたこと。

「あんたなら、私の “呪い”を解いてくれる気がしたの…」

『100万円の女4巻』

美波も、道間と経験することで自身のトラウマを克服できると信じていました。

違って見える二人ですが、意外にも似たもの同士だったのかもしれません。

当人たちはどう思っていたのでしょうか…真犯人の正体すら見破っていた美波ですから、似ていることに気づいていてもおかしくない気がします。似てる二人ほど喧嘩する…とよく言いますしね!

何かとみどりを気に掛ける美波

みどりは宝くじの当選金10億円の受け取りの保証人となった神田から1億円を要求されていました。

その神田を”排除”するのに、美波が手を貸したのです。

結局、土壇場でみどりが止めたので神田を殺すことはしませんでしたが、自分でなんとかすると言うみどりに対し、美波はこう言います。

美波「17歳にもなって、一人で生きてるとでも思ってるの?人はね、甘えるときも必要なの。これだからガキはイヤなのよ…」

『100万円の女2巻』

一見キツイ言い方ですが、これは言い換えれば、「一人で抱えむことはない、困ったことがあれば相談しなさい」という美波なりの優しさ。

結局、美波の手を借りてしか神田を追い払うこができなかったみどり。

直接的なセリフがあったわけではないですが、一人で現状を打開できない自分への悔しさ、自分には敵わないほど強い美波に対する悔しさは、この時みどりの中に込み上げていたのではないでしょうか。

美波「くやしいって大事よ。いつでも相手してあげるからかかってきなさい。コテンパにしてあげる。」

『100万円の女2巻』

みどりの心の声を見透かしたように、美波は言うのでした。

伏線が存在?!みどりを守ることが美波の価値観

自分と似ているからこそ、美波はみどりの性格や思考をよく見抜いていたような気がします。

いざという時に、人に頼ることができない。子供だからこそ、頼り方が分からない。

そんなみどりが、真犯人のせいで共同生活が崩壊し、本当に一人ぼっちになったとき、どうなってしまうか。美波はそれを危惧したのでしょう。

だから死ぬ前に、みどりに万全のサポートと遺産、真犯人の正体を書いた遺書を残したのではないでしょうか。

結局美波も、最後は一人で真犯人に挑んで死んでしまいました…。

真犯人の最後の告白で、家と共に焼き殺される予定だったのは、美波ではなく、みどりだったことも判明しました。勘の鋭い美波は、その身代わりを自ら勝手出たとも考えられます。

普通の感覚だと、たった数ヶ月間の生活を共にしただけで、なぜそこまで?と思うかもしれません。それこそ命やお金に対する「人それぞれの価値観」の違いから生じる違和感なのでしょう。

美波が自分の仕事場に、初めて道間を連れて行く時に、こんな発言がありました。

「世の中には人間の数だけ価値観の違いがあるの。私がそれをあんたに教えてあげるわ。」

『100万円の女1巻』

これがラストの伏線だったりして・・・と考えると鳥肌ですよね。

【謎2】何故みどりは美波として生きることにしたのか。

当初のみどりは「美波さんみたいになりたくないので…」と発言したこともありました。

ところがエピローグのラストでは、白川美波として生きる様子が描かれていました。みどりの心境はどのように変化していたのでしょうか。

神田の事件がキッカケ?

神田を排除する手助けに美波が加わったときが、最初のキッカケではないかと推測します。

おそらくみどりは、この事件をキッカケに「強くなる」ためには経験が必要というだけではないことに気づいたのではないでしょうか。

「強い大人」「強い女性」の理想像は、このときから白川美波になっていったのかもしれません。

美波の顔になったみどり

美波は最後、砂子と共謀して真犯人を殺しました。その時のみどりの顔は美波そっくりでした。

美波の遺言には「あなたは逃げて生きなさい」とあったようですが、みどりは

「私…あの人の言うコト聞きたくないんです…」

『100万円の女4巻』

と言いながら真犯人に復讐を果たします。

「美波さん…この気持ち、一生忘れませんからね…」

『100万円の女4巻』

この気持ちとは、悔しさのことでしょう。

遺産の手続きの関係や、未成年より成人である方が一人で行動しやすいと言う理由で「白川美波」を名乗っているという解釈もありえますが、それだけじゃないでしょう。というよりそれじゃあまりにも味気なさすぎる…

みどりがこれから「強く」生きてゆく、つまりコンプレックスを克服する「決意」として、自分の憧れである美波になりきることが非常に重要だったのではないでしょうか。

以上が私の考察でした。

読めば読むほど味が出る作品だと思います。ぜひ皆さんの価値観で読むとまた違う考察が生まれるかもしれません。